こんな方におすすめ
- 成形条件の作り方、手順ってあるの?
- 条件調整方法を知りたい
- 成形不良を条件で直したい
射出成形のコア技術【成形条件の作り方 基本編】をシェアしていきます。
- 成形条件の作り方
- 各条件の設定方法
- 専門用語の解説
- 成形条件を決める手順
- 注意点 など
初心者・若手に向けて、成形条件を作るポイントを、全体像から詳細まで噛み砕いて解説していきます。
この1記事で射出成形の成形条件に関して網羅する内容になります。
※この記事は、随時更新しております。また、関連記事や詳細記事の追加をして参ります。
プラ太郎@特級プラスチック成形技能士
- 一部上場企業 射出成形工場勤務
- 実家は、成形機販売商社で機械メカニック
- 2級 1級 特級 全て1発合格
- 特級取得 35歳。県内1位表彰
- 2017年から射出成形の情報発信をコツコツ継続中
お取引先:ミスミ様(記事寄稿、写真動画提供)MAZIN様(記事寄稿、技術提供)日刊工業新聞社様(『型技術』寄稿)、RX Japan様(展示会インタビュー、セミナー登壇)
目次
1.成形条件の作り方
成形条件の作り方を解説する前に
射出成形の基本から学びたい方は、下記リンクを先にお読みください。
-
射出成形とは? 原理と特徴 メリットとデメリット 技能士が丁寧に解説しています
続きを見る
射出成形における 良い成形条件とは
良い成形条件とは、量産中のバラツキを許容出来る条件のことです。
射出成形ってさぁ
10人いれば
10通りの成形条件があるんだよね。でも、
原理原則に従って
成形条件出せてる人って
少ないんだよね。いい条件は
上限下限がわかってること樹脂温度、圧力、速度、型温
どこからどこまで
規格に納まるかを知るバラツキを許容できる【幅】を掌握する。
— プラ太郎♻️特級プラスチック成形技能士 (射出成形) (@PlasticFan2017) September 22, 2022
量産中、製品は、絶対にバラツキます。製品は、同じ様に見えても、1つ1つが少しずつ違います。このバラツキを、品質規格内に収めることが重要です。
製品の品質規格の例
品質規格 | 詳細 |
重量 | 550±10g |
寸法 | 250±2.5mm |
練りこみ異物 | 1視野内0.3㎜²が1つ以内 |
シルバー | なきこと |
離型傷 | なきこと |
全ての品質規格内に収まる製品が、良品です。1つでも外れてしまうと、不良品になってしまいます。
2.成形条件の設定項目
成形条件は様々な項目の組み合わせです。
射出ユニット、型締ユニット、周辺機器を設定していきます。
射出ユニットの成形条件
射出ユニットの成形条件は、加熱筒で樹脂を溶かして、金型に高速で充填する設定です。
周辺装置の成形条件
- 乾燥機
- 金型温度調節機
- 取出し機
3.成形条件の設定手順
基本的な成形条件の作り方の手順を解説していきます。
成形条件の設定手順
- 仮の成形条件を作る
- 製品を見て、条件を調整していく
- 上限下限を調べる
- 中央を基準条件とします。
1.仮の成形条件を作る
設計仕様書などを参考に、製品重量分を計量します。移管金型や開発のため、製品情報や見本サンプルがない時は、ショートショット法で、徐々に充填量を増やしていき、90%程度充填したところで保圧に切り替えます。フルパックするまで充填していきます。
ショートショット法とは
計量完了位置を増やしていき、どの程度充填されるか調べて行く方法です。
下図の様に徐々に充填量を増やしていきます。
下記に、仮条件の設定方法を説明しています。
金型の大きさ・原料の種類などにより設置値は異なりますが、基本的な設定手順は一緒ですので、参考にしてみてください。
設定項目 | 詳細 |
加熱筒温度 | 原料メーカーの推奨温度 |
金型温度 | PP:20~30℃、PC:80℃、PSF:100℃ |
計量完了位置 | オーバーパックしないように、少ない数値を入力する 何mmでどのくらい充填できるか確認しておく |
VP切り換え位置 | 10mmで固定して、計量完了位置を前後して、充填量を決めます |
射出圧力 | 80Mpa 射出速度が十分たつ様に設定 |
射出速度 | 30~50mm/sec 初めは1速で充填 その後必要であれば多段制御 |
保圧 | 0Mpaからスタート。計量完了位置からVP切り換え位置までで90~95%充填できた後、30Mpa程度かける |
保圧時間 | 1sec 後で、ゲートシール時間を決めていきます |
冷却時間 | 10~20sec 製品のヒケ、離型、変形を見ながら、変更していきます |
計量(スクリュー回転) | 40rpm 冷却時間内に間に合えばOK |
背圧 | 3Mpa 高すぎる背圧は、溶融樹脂を高圧縮し熱劣化、練り込み異物につながります。必要最小限にする |
サックバック | 5mm 鼻たれ、シルバー、コールドスラッグを見て調整 |
ストリッパープレート金型は、ショートすると製品がコアに抱き着き、離型できません。
ショート品の除去が面倒ですが、オーバーパックすると金型が壊れてしまうので、少しづつ充填することをお勧めします。
2.製品を見て、条件調整
品質規格に収まるように成形条件を調整します。
考慮すべきこと | 詳細 |
重量 | 規格内に、納める |
寸法 | 収縮後に、規格内に収まるように |
外観 | 成形品のどこに、どんな成形不良があるか確認し、成形条件を調整 |
1ショットサイクル | 標準サイクルで成形可能か確認 |
成形性 | 充填、離型、取出しなど問題ないか確認 |
取出し確認 | 取出しチャック、吸着が使用できるか。取出し位置とタイミングの確認 |
射出速度の条件調整
フローフロント(充填の先端)を意識して、金型内の通過位置ごとに速度を変えて調整します。
ゲート周辺のシルバー | ゲート通過位置の速度を下げる |
ボス通過後のウェルドが強い | 速度を下げる |
湯ジワ | 速度を上げる |
保圧の条件設定
製品のヒケ、バリを見ながら、ゲートシール時間を調べていきます。
ゲートシール時間の求め方は下記リンクから
-
射出成形におけるゲートシール時間の設定方法 保圧時間の決め方
続きを見る
保圧時間が決まったら、保圧力を設定していきます。目視にて、ヒケ・バリなどを確認しながら、保圧を調整します。
計量、背圧、サックバックの条件調整
適度な背圧をかけて、冷却時間内に計量が完了することがポイントです。
糸引き | サックバックを増やすことで改善することがあります。 |
シルバー | サックバックを引きすぎている。サックバックを減らす。または、背圧を上げて混錬をよくする |
他の成形不良と成形条件の調整は、成形条件の設定はこちらリンクから
3.上限下限を見極めていく
バラツキに強い条件は、上下に許容幅のある条件です。
なぜ上下幅が必要なのか?
この様に、外因のバラツキに余裕が持てるように主要項目を上下して、品質規格の幅を見極めていきます。
4つの主要項目を実験していきましょう。各項目と上下することで確認できることは下記の通りです。
- 加熱筒温度
樹脂の流れやすさ - 射出速度
充填しやすさ、外観 - 保圧力
流動末端の充填、ヒケや寸法 - 金型温度
充填しやすさ、外観
上限下限条件の見つけ方
条件に対して、主要項目を1つづつ上下してみましょう。
主要項目 | 設定方法 |
1.加熱筒温度 | 原料メーカーの推奨条件内で、低い温度、高い温度で成形してみます。
低い温度:ショート、湯ジワがないこと |
2.射出速度 | 射出速度を上下し、成形品の品質を確認
PP参考 |
3.保圧 | 保圧を上下し、成形品の品質を確認
PP参考 |
4.金型温度 | 金型温度を上下してみます
PP参考 |
各項目の上限下限がわかったら、主要4項目を組み合わせて上下していき、良品がとれる成形条件を見つけていきます。
1つづつなら大きく調整できた項目ですが、全てを下限にするとショートし、上限にすればオーバーパックしてしまいます。
4項目を徐々に下げて(上げて)いき、品質を見ていきます。
加熱筒温度 | 射出速度 | 保圧 | 金型温度 | |
上限 | 240 250 250 | 40 60 60 | 30 50 | 40 |
下限 | 180 190 190 | 25 40 40 | 25 40 | 15 |
上表の設定で、品質規格内の良品が取れました。
4.中央値を基準条件に決定
上下限がわかったところで、中央値を基準条件として設定します。
加熱筒温度 | 射出速度 | 保圧 | 金型温度 | |
上限 | 240 250 250 | 40 60 60 | 30 50 | 40 |
基準 | 210 220 220 | 33 50 50 | 28 45 | 25 |
下限 | 180 190 190 | 25 40 40 | 25 40 | 15 |
主要4項目に上下の余裕を持たせることで緩衝材となり、様々なバラツキを抑えてくれます。
【量産中に起こるバラツキの例】
- 原料ロットブレ
- 外気温、湿度
- 金型ガスの蓄積
- 取出し時間 など
仮条件では、量産時のバラツキを許容できず、すぐに不良が発生してしまいます。基準条件をきっちり出すことで、量産時のトラブルが格段に減ります。
また、条件の上限下限をわかっていれば、成形不良が発生した時の対処もしやすくなります。良品が取れる範囲内なら、設定を調整しても2次被害が出ることが少ないので、軌道修正が簡単に行えます。
まとめ
本日は、成形条件の作り方をテーマにお話ししました。射出成形工場は、それぞれの企業が仕事を取り合うライバルです。その理由で、成形条件の作り方は、なかなか公表されません。
しかし、それでは日本の射出成形の技術は上がりません。A社では当たり前のノウハウが、B社は知らない。
近年、円安、資源高、人件費の高騰。さまざまは暗いニュースが溢れています。射出成形の基礎的なノウハウを、会社の垣根を越えてシェアしていきましょう。
野球をするのに、バット、グローブの道具と、ルールを知ることが必要です。射出成形も同じです。機械・装置、工具と、適正作業が必要です。
まずは、基礎的は知識・技術を身に着けていきましょう。今回解説した知識を、ぜひ現場で使ってもらいたい。インプットした知識を、現場で使うことで経験になり蓄積されていきます。
プラファンでは、200本以上の射出成形の技術記事を読めます。
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