こんな方におすすめ
- 成形条件の作り方って何?
- 条件出しの手順ってあるの?
- 成形条件の考え方
- 【なぜ】を理解して条件出しできてる?
射出成形における成形条件は、料理でいうところのレシピです。
インターネットで検索しても、なかなか成形条件の作り方を詳しく学べる資料が出てきません。
- 成形条件
- 条件出し
- 条件調整
- 成形条件の作り方
- 成形出しの手順
射出成形業界では、仕事を取り合う関係上、そのコアな技術は公になりにくいものです。
成形条件の作り方ノウハウは、会社の先輩から後輩へと受け継がれていくイメージです。
各社がライバルのため成形条件の出し方は、門外不出のマル秘情報になります。
そんな射出成形のコア技術【成形条件の作り方 基本編】をシェアしていきます。
- 成形条件の作り方
- 各条件の設定方法
- 専門用語の解説
- 成形条件を決める手順
- 注意点 など
初心者・若手に向けて、成形条件を作るポイントを、全体像から詳細まで噛み砕いて解説していきます。
この1記事で射出成形の成形条件に関して網羅する内容になります。
※この記事は、随時更新しております。また、関連記事や詳細記事の追加をして参ります。
ぜひこの記事をブックマークしてください。
実務で悩んだ時、不良が直せない時の成形条件のおさらいに使用してください。
かなりの長文になりますので、中級者以上の方は、下記 目次から欲しい情報までジャンプして御覧ください。

目次
1.成形条件の作り方
成形条件の作り方を解説する前に
射出成形の基本から学びたい方は、下記リンクを先にお読みください。
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射出成形とは? 原理と特徴 メリットとデメリット 仕組みと定説
続きを見る
1-1. 射出成形における 良い成形条件とは
- 良い成形条件ってどんな条件?
- 定義ってあるの?
- 何を基準に良い条件っていうの?
ポイント
良い成形条件とは、量産中のバラツキを許容出来る条件のことです。
射出成形ってさぁ
10人いれば
10通りの成形条件があるんだよね。でも、
原理原則に従って
成形条件出せてる人って
少ないんだよね。いい条件は
上限下限がわかってること樹脂温度、圧力、速度、型温
どこからどこまで
規格に納まるかを知るバラツキを許容できる【幅】を掌握する。
— プラ太郎♻️特級プラスチック成形技能士 (射出成形) (@PlasticFan2017) September 22, 2022
量産中、製品は、絶対にバラツキます。製品は、同じ様に見えても、1つ1つが少しずつ違います。
射出成形のばらつきの例
バラツキの種類 | 状態や範囲 |
重量 | 軽い、重い |
外観 | シルバー、離型傷、練りこみ異物 |
寸法 | 小さい、大きい |
成形サイクル | 短い、長い |
このバラツキを、製品の規格内に収めることが重要です。
それぞれの製品には、予め決められた品質規格があります。
製品の品質規格の例
品質規格 | 詳細 |
重量 | 550±10g |
寸法 | 250±2.5mm |
練りこみ異物 | 1視野内0.3㎜²が1つ以内 |
シルバー | なきこと |
離型傷 | なきこと |
全ての品質規格内に収まる製品が、良品です。1つでも外れてしまうと、不良品になってしまいます。
品質規格に収まるような成形条件を決めていきます。

2.成形条件の設定項目
射出成形における成形条件とは、プラスチック製品の作成法です。
料理でいうところの、レシピです。
様々な設定の組み合わせることで、安定して良品の生産できる成形条件を決めていきます。
成形条件の設定項目はたくさんあります。設定項目ごとのポイントをそれぞれにまとめています。
必要な知識は下記リンクから学んでください。

射出ユニットの成形条件
射出ユニットの成形条件は、加熱筒で樹脂を溶かして、金型に高速で充填する設定です。
周辺装置の成形条件
- 乾燥機
- 金型温度調節機
- 取出し機
3.成形条件の設定手順
基本的な成形条件の作り方の手順を解説します。
成形条件の作り方
品質規格の範囲内にバラツキを抑える条件を作りましょう。
step
1仮の成形条件を作る
金型を壊さないように、仮の条件を設定していきます。
step
2製品を見て、条件を調整していく
できた成形品の品質を、より良いものにしていきます。
step
3上限下限を調べる
仮条件が規格内に収まったところで、その条件の上限下限の幅を決めていきます。
step
4上限下限の中央を基準条件とします。
上限と下限のちょうど間を、基準条件にすることで、量産中の様々なバラツキを許容できる条件になります。
金型を取り付けた後からの射出ユニットの成形条件の解説をしていきます。(金型取付までの手順は、今後作成します。)
Step1.仮の成形条件を作る
設計仕様書などを参考に、製品重量分を計量します。
移管金型や開発のため、製品情報や見本サンプルがない時は、
ショートショット法で、徐々に充填量を増やしていき、90%程度充填したところで保圧に切り替えます。
ショートショット法とは
計量完了位置を増やしていき、どの程度充填されるか調べて行く方法です。
下図の様に徐々に充填量を増やしていきます。
下記に、ざっくりとした条件設定を書いてみます。
実際は、金型の大きさ、扱う原料の種類などが変わりますので、設定数値は異なります。
基本的な設定手順は一緒ですので、参考にしてみてください。
設定項目 | 詳細 |
加熱筒温度 | 原料メーカーの推奨温度 |
金型温度 | PP:20~30℃、PC:80℃、PSF:100℃ |
計量完了位置 | オーバーパックしないように、少ない数値から 何mmでどのくらい充填できるか確認しておく |
VP切り換え位置 | 10mmで固定して、計量完了位置を前後して、充填量を決めます |
射出圧力 | 80Mpa 射出速度が十分たつ様に設定 |
射出速度 | 30~50mm/sec 初めは1速で充填 その後必要であれば多段制御 |
保圧 | 0Mpaからスタート。計量完了位置からVP切り換え位置までで90~95%充填できた後、30Mpa程度かける |
保圧時間 | 1sec 後で、ゲートシール時間を決めていきます |
冷却時間 | 10~20sec 製品のヒケ、離型、変形を見ながら、変更していきます |
計量(スクリュー回転) | 40rpm 冷却時間内に間に合えばOK |
背圧 | 3Mpa 高すぎる背圧は、溶融樹脂を高圧縮し熱劣化、練り込み異物につながります。必要最小限でよし |
サックバック | 5mm 鼻たれ、シルバー、コールドスラッグを見て調整 |
ストリッパープレート金型は、ショートすると製品がコアに抱き着き、離型できません。
ショート品の除去が面倒ですが、加充填は金型破損につながりますので、少しづつ充填することをお勧めします。
Step2.製品を見て、条件調整
仮の成形条件で、フル充填できたら、成形条件を調整していきます。
調整する上で考慮するべきこと
考慮すべきこと | 詳細 |
重量 | 規格内に、納める |
寸法 | 収縮後に、規格内に収まるように |
外観 | どこに、どんな成形不良があるか確認し成形条件を調整 |
1ショットサイクル | 標準サイクルで成形可能か確認 |
成形性 | 充填、離型、取出しなど、量産が可能か確認 |
取出し確認 | 取出しチャック、吸着が使用できるか。その取出し位置の確認 |
射出速度の条件調整
フローフロント(充填の先端)を意識して、金型内の通過位置ごとに速度を変えて調整します。
ゲート周辺のシルバー | ゲート通過位置の速度を下げる |
ボス通過後のウェルドが強い | 速度を下げる |
湯ジワ | 速度を上げる |
保圧の条件設定
製品のヒケ、バリを見ながら、ゲートシール時間を調べていきます。
ゲートシール時間の求め方は下記リンクから
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射出成形におけるゲートシール時間の設定方法 保圧時間の決め方
続きを見る
合計保圧時間が決まったら、保圧力を設定していきます。
目視にて、ヒケ・バリなどの外観状況を確認しながら、徐々に保圧を上げていきます。
計量、背圧、サックバックの条件調整
適度な背圧をかけて、冷却時間内に計量が完了することがポイントです。
糸引き | サックバックを増やすことで改善することがあります。 |
シルバー | サックバックを引きすぎている。サックバックを減らす。または、背圧を上げて混錬をよくする |
他の成形不良と成形条件の調整は、成形条件の設定はこちらリンクから
Step3.上限下限を見極めていく
とりあえず作成できた成形条件は、仮条件です。
その仮条件の主要項目を上下して、規格に最適は成形条件を見極めていきます。
4つの主要項目を実験していきましょう。
- 加熱筒温度
- 射出速度
- 保圧力
- 金型温度
上限下限条件の見つけ方
仮の条件に対して、主要項目を1つづつ上下してみましょう。
主要項目 | 設定方法 |
1.加熱筒温度 | 原料メーカーからの参考温度内で、低い温度、高い温度で成形してみます。 低い温度:ショート、湯ジワがないこと 高い温度:バリ、オーバーパックがないことPP参考 180 190 190 判定〇 240 250 250 判定〇 |
2.射出速度 | 仮条件の射出速度を上下し、成形品の品質を確認
PP参考 |
3.保圧 | 仮条件の保圧を上下し、成形品の品質を確認
PP参考 |
4.金型温度 | 仮条件の金型温度を上下してみます
PP参考 |
各項目の上限下限がわかったら、主要4項目を全て上下していき、良品がとれる成形条件を見つけていきます。
1つづつなら大きく調整できた項目ですが、全てを下限にするとショートし、上限にすればオーバーパックしてしまいます。
4項目を徐々に下げて(上げて)いき、品質を見ていきます。
加熱筒温度 | 射出速度 | 保圧 | 金型温度 | |
上限 | 240 250 250 | 40 60 60 | 30 50 | 40 |
下限 | 180 190 190 | 25 40 40 | 25 40 | 15 |
上表の設定で、品質規格内の良品が取れました。
Step4.中央値を基準条件に決定
上下限がわかったところで、中央値を基準条件として設定します。
加熱筒温度 | 射出速度 | 保圧 | 金型温度 | |
上限 | 240 250 250 | 40 60 60 | 30 50 | 40 |
基準 | 210 220 220 | 33 50 50 | 28 45 | 25 |
下限 | 180 190 190 | 25 40 40 | 25 40 | 15 |
主要4項目に上下の余裕を持たせることで緩衝材となり、様々なバラツキを抑えてくれます。
【量産中に起こるバラツキの例】
- 原料ロットブレ
- 外気温、湿度
- 金型ガスの蓄積
- 取出し時間 など
仮条件では、量産時のバラツキを許容できず、すぐに不良が発生してしまいます。
基準条件をきっちり出すことで、量産時のトラブルが格段に減ります。
また、条件の上限下限をわかっていれば、成形不良が発生した時の対処もしやすくなります。
良品が取れる範囲内なら、設定を調整しても2次被害が出ることが少ないので、軌道修正が簡単に行えます。
まとめ
本日は、成形条件の作り方をテーマにお話ししました。
冒頭お伝えした通り
射出成形工場は、それぞれの企業が仕事を取り合うライバルです。
成形条件の作り方は、公表されません。
でも、それでは日本の射出成形の技術は上がりません。
- A社では当たり前のノウハウが、B社は知らない。
- 逆もしかり
企業努力の一言で片付けて良いのでしょうか?
こんなことをいつまで続けますか?
近年、円安、資源高、人件費の高騰。
さまざまは暗いニュースが溢れています。
射出成形の基礎的なノウハウは、共有知にしていきましょう。
野球をするのに、バット、グローブの道具と、ルールを知ることが必要です。
射出成形も同じです。機械・装置、工具と、適正作業が必要です。
まずは、基礎的は知識・技術を身に着けていきましょう。
今回解説した知識を、ぜひ現場で使ってもらいたい。
インプットした知識を、現場で使うことで経験になり自身に蓄積していきます。
本日の基本の知識を活かして、積極的に条件出しにチャレンジしてみてください。