射出成形は、高温に熱したプラスチック原料を、高圧で金型に充填する加工方法です。
金型内の水管を冷却水が循環し、熱交換がされます。
充填された樹脂が持つ力を、残留応力と呼びます。
この残留応力が大きいと、変形や寸法逸脱など様々な不良が起こります。
そんな品質に大きく関係がある残留応力について、言葉の意味から、注意ポイントまで詳しく解説していきます。
残留応力とは
残留応力は、外から力を加えた時に、後に残っている力のこと。
力を表す物理量として、「応力(おうりょく)」という言葉があります。
応力とは、物体が外から力を受けた時に、物体の内部に発生する力のことを言います。
例えば、固い木の棒の両端を手で持ち、外向きに引っ張ったら何が起こるでしょうか?
木の棒は両端を引っ張るという力を加えられても、よほど強い力をかけない限り伸びません。これはなぜかといえば、木の棒という物質の内部に、引っ張るという「外からの力に応じた力」が働いているからです。
この外からの力に応じた力のことを応力と呼びます。
応力は力ですので、単位はN(ニュートン)になります(単位面積あたりで力を割る場合もあります)。
物体に外から力を加えると応力が発生しますが、外から力を加えることをやめた場合、応力はどうなるでしょうか?
感覚的には、外からの力がなくなった瞬間に応力もなくなりそうです。しかし、実は外から力を加えるのをやめても、物体に応力が残ることがあります。この物体に残った応力は、「残留応力」と呼ばれます。
薄い板を曲げるという力を加えて手を離した場合、板が元に戻る場合には残留応力は発生しません。しかし、薄い板を曲げて手を離しても元に戻らない場合には、曲げた力とは逆方向に残留応力が発生しています。
プラスチック成形品における残留応力
残留応力は、金属素材の場合においてよく議論されますが、プラスチックの射出成形においても残留応力を考えることが重要です。
プラスチック製品(成形品)を製造する射出成形では、溶解した樹脂原料を高圧で金型内に射出して充填します。その後、金型を冷却したのち、金型から成形品を取り出しますが、成形品には残留応力が発生しています。
成形品は、この残留応力によって反りや変形、収縮が生まれてしまいます。このため、プラスチック製品の加工において成形品の品質を上げるためには、残留応力を緩和することが重要です。
残留応力が発生する原因
成形品に残留応力が発生してしまう原因には、以下のものが挙げられます。
温度
樹脂は、温度が高いと収縮力が強まります。射出成形後は金型の温度が下がっていきますが、成形品の内部や厚みのある部分では温度が下がりにくいため、冷却時間の差によって不均一な収縮が起こります。これが、成形品における残留応力が発生する原因となります。
圧力
一般的に、樹脂は圧力が高いと収縮率が小さくなります。これは、高圧がかかっている箇所の密度が高くなるからです。成形時は外側の圧力が大きく、また、厚みによっても圧力が生じます。この圧力の不均一性も残留応力の原因となります。
繊維の配向
プラスチック成形では、ガラス繊維や炭素繊維などのフィラー(添加剤)を加えることがあります。これらの繊維は、成形時の樹脂の流れが繊維の向き(配向)になります。樹脂は、繊維の配向によって収縮率が異なるため、この不均一性によって残留応力が発生することがあります。
残留応力を取り除くアニール処理
様々な原因で発生してしまう残留応力は、成形品の品質低下につながります。プラスチック成形では、「アニール処理」を行うことで、残留応力を取り除き、成形品の品質を向上させることができます。
アニール処理は、アニーリングなどとも言い、材料や成形品に熱を加えることによって、残留応力を取り除く方法です。アニール処理を行うことで、寸法精度を安定させたり、成形品の反りや変形、収縮を抑えたりすることができます。
アニール処理では、成形品を均一に加熱してからゆっくりと冷却します。加熱には熱風乾燥機や電気炉を使用します。
アニール処理では樹脂原料によって温度が異なりますが、結晶性のプラスチックではガラス転移点よりも高い温度、非結晶性プラスチックではガラス転移点よりも20~30℃ほど低い温度で加熱します。
アニール処理は、成形直後の段階で行う場合もあれば、次工程の切削加工後に行う場合もあります。コストの問題もあることから、アニール処理をどの段階で行うかについては、製品の生産計画に合わせて決定する必要があります。
まとめ
このように、プラスチックの射出成形では、成形品の残留応力を考慮した製造が必要です。樹脂原料の種類や成形品の形状などによって、残留応力の生じ方は様々です。残留応力の除去には手間や時間、コストもかかることから、自社に合わせた対応が必要となります。