プラスチックは、現代社会には欠かせません。
プラスチックはその便利さから、生産量が増加の一途を辿っています。
1964年の容器包装プラスチックは、世界で1500万トンの生産量であったのに対し、2014年には3億110万トンに達しました。さらに、今後20年間で現在の生産量の2倍になると予想されています。
ポイント
「プラスチックで、世界はできている」
なくてはならない素材です。
本日は、地球環境に配慮したプラスチック素材「生分解性樹脂」の取り組みや課題をご紹介していきます。
目次
1.プラスチックに関する問題と、今後の取り組み
プラスチックは高機能が故に、地球環境に悪影響
プラスチックゴミ問題
人間社会には欠かせないプラスチックですが、ごみ問題は人類全体の課題と言えるほど深刻です。
1950年以降に生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがごみとして廃棄されています。ごみとなったプラスチックのうち、79%は埋め立てられたか海洋などに投棄されており、リサイクルされているプラスチックは9%に過ぎません。
現在のペースでは、2050年には、海洋中のプラスチック量が、魚の量を超えると考えられているほど、ごみ問題は深刻です。
プラスチックゴミに対する今後の取り組み
プラスチックのごみ問題を解決するためには、プラスチックの使用量を抑えるとともに、サーキュラーエコノミーを念頭においた商品開発、バイオマス樹脂や生分解性プラスチックなどの地球に優しい原料を使用することが重要です。
ポイント
- プラスチック使用量を抑える
- 設計当初に、リサイクルまで考えられた循環型の商品開発をしていく。
- 地球に優しいプラスチック原料に置き換えていく
(バイオマス樹脂、生分解性樹脂など)
2.生分解性プラスチックとは
分解され地球に還るプラスチック
生分解性プラスチックとは、単にプラスチックがバラバラになりやすいということでありません。
生分解性プラスチックは、微生物の働きによって分子レベルで分解し、最終的に二酸化炭素と水になる性質を持つプラスチックを指します。
生分解性プラスチックの中でもコンポスト(堆肥)の中でのみ分解されるもの、土壌でも分解されるもの、水環境でも分解されるものなど、プラスチックの種類によって生分解性の度合いや種類が異なります。
いろいろな分解環境
生分解性プラスチックは、用途に応じて最終的に分解される環境が異なります。
- コンポスト(堆肥)の中
- 土壌
- 水環境 など
3.代表的な生分解性プラスチック
生分解性を有するプラスチックの例としては、などが挙げられます。
代表的な生分解性プラスチック
- ポリ乳酸(PLA)
- ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)
- ポリブチレンサクシネート(PBS)
- 澱粉ポリエステル樹脂
- 酢酸セルロース
①ポリ乳酸
ポリ乳酸は、トウモロコシなどのデンプンを原料としたプラスチックです。
デンプンを微生物が発酵することで乳酸が生成し、この乳酸を化学的に重合したものがポリ乳酸です。
ポリ乳酸は食品容器や日用品、フィルムにも使用可能であり、生分解性プラスチックの中では繊維に展開できる数少ない樹脂です。
②ポリヒドロキシアルカン酸
ポリヒドロキシアルカン酸は、微生物が生産するポリエステルの総称です。
植物由来の糖源を利用して、微生物によって生産されます。ポリヒドロキシアルカン酸の化学構造は様々であり、包装や食品容器など、汎用的なプラスチック製品に使われています。
ポリヒドロキシアルカン酸は、水中での生分解性を有することもあり、海洋のマイクロプラスチック問題の観点から注目されています。
③ポリブチレンサクシネート
ポリブチレンサクシネートは、生分解性の樹脂の中では高い耐熱性を有するプラスチックです。
食品容器に使われるとともに、農業用のマルチフィルムにも使われます。マルチフィルムとは、栽培時の温度調節や雑草防止に使われる土を覆うフィルムです。
生分解性のフィルムを使うことで、剥ぎ取り作業や回収・廃棄処分が不要になり、土にすき込むだけで廃棄処理できるという利点があります。
④澱粉ポリエステル樹脂
澱粉ポリエステル樹脂は、熱で可溶化したデンプンと、脂肪族ポリエステルなどを混合したプラスチックです。
デンプンのみでもプラスチックは作れますが、乾燥すると脆いなど、物性が悪いという問題があります。
この弱点を補ったものが澱粉ポリエステルであり、生分解性を有しつつも、物性が向上しています。
レジ袋やゴミ袋、日用品などに使われています。
⑤酢酸セルロース
酢酸セルロースは、植物が作り出す天然高分子であるセルロースを使ったプラスチックです。
セルロースを酢酸で化学修飾することによって作られます。
酢酸セルロースの歴史は古く、石油系プラスチックが台頭して代替されるまで、フィルム、メガネフレーム、繊維、包装容器など、幅広く使われていました。近年では、海洋での分解性を高めた酢酸セルロースも開発が進められています。
4.生分解プラスチックの課題
以上のとおり、生分解性プラスチックと言っても様々な種類があり、用途によって使い分ける必要があります。
ユーザーは、生分解性があるからといっても物性が良くなければ使いません。
生分解性とプラスチックの丈夫さは、一見相反する性質です。このため、化学メーカーは、使用時には丈夫で、廃棄時には分解されるという難しいプラスチックの技術開発が必要です。
①価格が高い
生分解性プラスチックの原料単価は高額です。
既存の石油由来のプラスチック原料の、数倍から数十倍の価格になります。
製品化した時に、既存の成形品と比較して割高になることは避けられません。
環境を意識した付加価値をユーザーに理解して選んでもらえるような、ブランディングが必要になります。
②機能面で劣る
1960~70年代から、プラスチックが世に登場してきました。
原油由来のプラスチックが世に出た時は、今の生分解性樹脂のように高額でした。
それから現在まで、大量安価にプラスチック原料を生産できるようになるとともに、高強度な素材へと開発が進められてきました。高温、高圧、寒冷環境など、その用途に応じたエンジニアプラスチックが使用されています。
現在の生分解性樹脂は、開発段階ですので、原油由来の樹脂に比較すると物性強度は劣ります。
③プラスチック素材のイメージ
私たちの生活を見渡すと至る所にプラスチックが使用されています。
これらのプラ製品は、安価に大量生産が可能なため、プラスチックは大事に使うものではなく使い捨て製品という認識です。
これは、原料を安価で大量に供給できるから成しえたものです。
安価で便利なプラのイメージが先行しているので、この大量生産・大量消費のプラ製品には、生分解性樹脂はまだまだ導入は進みません。
今後、サステナブルな活動が当たり前になり、価格以上の価値を付与していくことが課題になります。
生分解性プラスチックの普及は、人類課題の解決に直結する重要な問題ですので、産官学が連携して、研究開発していくことが大事であると考えられます。
参考資料:プラスチックを取り巻く国内外の状況<第3回資料> 環境省