射出成形は、1台の成形機で、様々な種類の原料、たくさんの色を成形します。
加熱筒内のスクリューは複雑な構造のため、上手に原料替えしなくては、前の原料が残ってしまいます。
ただ単に原料を流しても、うまく原料の置き替えはできません。
理想のパージ方法、パージ手順は存在します。
どうやったら効果的に原料置き替えができるか?
どんどん高騰している原料を最少でパージすることで、廃棄ロスを抑えられます。
最適のパージは、利益に直結します。
今回は、パージの基本をしっかり丁寧に解説していきます。
- パージの手順
- 適正なパージ方法
- パージ剤の正しい使い方
- パージ作業の参考動画
を、紹介しています。
また、技能検定の実技試験でも、パージ工程はありますね。
技能検定 射出成形作業
等級別使用材料表
等級 | X組 | Y組 |
1級 | PS | ABS |
2級 | PS | PC |
基本的な原理原則、ルールをしっかり学んでいきましょう。
1.パージとは
「パージ」は、様々な業種で使われる用語です。
英語の「purge」がそのまま使われています。
意味:一掃、抹消、追放。
射出成形においては、
加熱筒内の溶融原料を排出することを「パージする(パージング)」と言います。
加熱筒の中の原料を、一掃する作業です。
しかし、加熱筒内のスクリュー構造は複雑です。
闇雲に流しても、効果的に原料替えはできません。
パージの手順、理論をきちんと理解した上で、パージ作業をおこないましょう。
目的によってパージ方法は異なります。
目的ごとに解説していきます。
(ⅰ)成形スタート時、チョコ停時のパージ方法
加熱筒内に高温のまま滞留している原料は、
時間経過とともに熱劣化、熱分解が起こります。
熱劣化、熱分解した原料は、通常の流動より流れが良くなります。
イメージは、いつもよりトロトロサラサラに変化してしまう感じです。
そのまま充填してしまうと、いつもより流動が良いので、
オーバーパックし金型を壊してしまうことがあります。
分解する前に新しい原料に置き換えましょう。
□ 成形スタート時 パージポイント
粘度の低下、熱劣化した原料をパージングし、新しい原料と置き換える必要があります。
基本的には、加熱筒内分の原料をパージすれば、成形スタートするには十分です。
しかし、ノズル先端から出てくる原料の中に
・前の原料の色が残っている時
⇛ パージ量が不足
そんな時は
もう少しパージするか、ひどい時はパージ材を使用しパージします。
・練り込み異物(黒色や茶色の炭化物)がある時
⇛ スクリューにこびりついた炭化物が剥がれ出ている状態です。
そんな時は、
・パージ数を増やして量で排出する。
・パージ剤(発砲性の洗浄材料)でパージする。
・加熱筒を分解清掃する などの処置が必要です。

そのまま計量⇛充填すると、オーバーパックし金型破損もあるからしっかりパージしようね👍
□ チョコ停の時 パージポイント
異常発生や、金型のメンテナンスで、チョコ停する場合がありますね。
パージしないでそのまま再開すると、オーバーパックやショートが発生する事があります。
後処理が大変ですし、金型の破損にも繋がります。
一旦可塑化装置を後退させて、パージをしましょう。
チョコ停スタートは、いきなり練り込み異物が出てくる事は少ないです。
パージ量目安は下記の通りです
- 瞬間停止時は、1ショット分程度パージ量
- 異常停止や金型メンテナンスにて10〜30分程停止した時は、5ショット〜加熱筒内原料を置き替え程度
ただし、成形機の大きさや、使用している原料の種類によって大きく異なります。

パージ量は材料ロスだからね。
(ⅱ)樹脂替え時のパージ方法
射出成形機は、金型に樹脂を充填する加工業ですね。
1つの金型で、仕様によって、原料種類の違いや色違いのバージョンを成形できます。
また、金型を換えることで様々な成形品を成形できます。
加熱筒内は、スクリューが回転前後運動をします。
スクリューフライト部、先端のスクリューヘッド、逆止リングは、複雑な構造です。
原料替え時のトラブル例
- 前の樹脂が残っていて異材
- 色が残っている など
しっかりと原料替えが出来ていないと、成形した製品全てが不良になってしまいます。
□ 温度帯の同じ原料替え時の パージポイント
温度帯の同じ原料替えは、簡単です。
下記の通り、POM ⇛ PPに置き換える時の解説していきましょう。
A.加熱筒に入っている材料 | POM(180〜210℃) |
B.置き換えしたい材料 | P P(160〜250℃) |
パージ手順
① 加熱筒温度を190℃の状態で、POMがなくなるまでパージする。
② 加熱筒を190℃のままで、PPを投入しパージする。
・背圧を高めにかけて(スクリューが前進限で回転する状態を維持し)、
スクリュー全体のPOMを押し出していきます。
ノズル先端から出てくる原料の色やにおいで、PPに置き換わってきたと判断できます。
・次は、背圧を低くして、20〜50mm位まで計量して射出するパージに切り替えます。
スクリュー先端、残留原料を押し出します。複雑な先端の構造は、前の原料が残りやすい。
逆シリングを前後に動かすイメージで、10〜20回程パージします。
③ 加熱筒の温度をPPの成形温度に変更する。

しかし、濃い色⇛薄い色の原料替えは、ナチュラルよりしっかりパージしよう👍
□ 温度帯の違う原料替え時の パージ方法
温度帯の違う原料替えする時のパージはコツが要ります。
下記の通り、PCからABSに置き換える時の解説していきます。
A.加熱筒に入っている原料 | P C(280〜320℃) |
B.置き換えしたい原料 | ABS(190〜250℃) |
パージ手順
①加熱筒温度を300℃の状態で、PCをなくなるまでパージします。
②溶融温度の違いを補うため、温度設定の許容範囲をカバーできる材料PEを投入します。
通常、ポリエチレン(PE)、一般用ポリスチレン(GPPS)などが一般的です。
最初、背圧を高めにし、スクリュー前進限で回転を維持させ、スクリュー全体の原料をパージします。
その後、背圧を低くし、計量値を30(20〜50)mm位に設定し計量と射出をくりかえし、スクリュー先端の原料をパージします。
逆止リングを動かすことがポイントです。
③加熱筒内がPEに置き換わったら、加熱筒温度をABSの成形温度に変更します。
④ABSを投入し、加熱筒内をPEがなくなるまでパージする。

高価な材料は、3,000円 / kg以上します。
温度帯の違う原料替えは、安価なPEを使用する事で、パージ費用削減を意識しましょう。
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2.参考動画
パージの基本は、こちらから↓↓↓
■パージの基本■
パージ初期:背圧を高めにし、スクリュー前進限で回転を維持させ、スクリュー全体の原料をパージします。
その後:ノズル先端から出てくる原料を確認し、次原料に置き換わったら、背圧を低くし、
計量値を30(20〜50)mm位に設定し計量と射出を繰り返し、スクリュー先端に残る原料をパージします。
複雑な逆止リングの隙間に残る原料をかき出す為に、逆止リングを前後に動かすことがポイントです。