ピックアップ
高機能素材Week東京展にてトークセッション決定
2023年10月6日(金) 13:30~14:15
パネラー
リングスター 唐金さん
甲子化学工業 南原さん
一成モールド 氏田さん
モデレーター
プラ太郎
海洋プラゴミ問題は深刻であり、世界中の海がプラスチックゴミによって汚染されています。プラスチックゴミは海洋生態系に悪影響を与え、海洋生物に食べられるなどして食物連鎖に影響を及ぼしています。漁業、観光業などへの経済的影響も大きく、国際的な協力が求められています。
プラスチックの廃棄物削減やリサイクル強化、持続可能な消費者行動の促進などが解決策として模索されていますが、依然として課題は多く残されています。海洋プラゴミ問題への取り組みが喫緊の課題とされており、継続的な対策が求められています。
本日は、工具箱の専門メーカーとして、職場の安全安心に貢献してらっしゃる株式会社リングスターの唐金さんに海洋プラゴミ問題の活動についてインタビューさせていただきました。
1.リングスターの掲げるビジョン
株式会社リングスターは明治20年創業の老舗工具箱メーカーです。職人さん達の大事な工具を守る工具箱を開発販売しています。その強度・耐久性、機能性の良さから長年の信頼を築いてきました。
そんなプロの認める工具箱メーカーが、対馬の海洋ゴミ問題に積極的な取り組みをしています。【青色のポリタンクのリサイクル】です。
リングスターのビジョンは、地球環境と人々の生活の向上を両立させること。海洋環境の保護と資源の有効活用を通じて、持続可能な未来を築くことを目指しています。
プラ太郎
対馬の海洋プラゴミ問題に取り組むきっかけはどういったことでしたか。
唐金さん
facebookで、株式会社大都さんとパタゴニアさんからメンションされたのがきっかけです。【対馬の海洋プラスチック問題】についての現状の共有と、一緒に解決できるパートナーを探す旨の投稿で「工具箱として再生できないか?」とご縁をいただきました。
プラ太郎
その文脈で、現地の視察からスタートされたんですね。実際に対馬の環境とリサイクルの工程をご覧になっていかがでしたか?
唐金さん
想像以上のゴミの多さに驚きました。写真ではわからないですが、空中には発砲スチロールがチリゴミになって浮遊していました。漂着しているプラゴミは劣化が進んでおり、また様々なゴミと癒着しているため、選別洗浄リサイクルは大変難しいものでした。
プラ太郎
対馬に漂着するゴミの総量は、年間2~3万m³。膨大ですね。
唐金さん
学校の校庭いっぱいのレベルです。(高さ1mに積んだゴミが、縦200m(300m)×横100mに広がる)
対馬の現地スタッフさんは限られています。ゴミ回収や清掃活動だけでも大変です。
この規模全てをリサイクルするのは、現状では不可能です。中長期的に継続できることが重要ですので、この漂着ゴミの中から、特定のプラゴミを絞って重点的にリサイクルすることに決めました。それが【青色のポリタンク】です。
1つずつ確実にリサイクルを進めていくことで、順次その規模を拡大していく計画です。
2.技術力でサステナブルを可能に
海洋プラスチックのリサイクルは多くの工程とリソースを要するが、リングスターはその難題に技術力を駆使して挑んでいます。オーシャンプラスチックはバージン材に比べ物性や強度が劣るため、通常は成形加工には向かない。しかし、リングスターは工具箱の専門メーカーとして培ってきた独自の技術力を活かし、10%のオーシャンプラスチックのリサイクル材を混合しても、耐久性・強度を確保することに成功。この技術力が、海洋プラスチックの再利用を実現する鍵となりました。
プラ太郎
画像を見るだけで、海岸に漂着するプラ(オーシャンプラスチック)のリサイクルがいかに難しいかわかりますね。
唐金さん
そうなんです。オーシャンプラスチックは、「強度・耐久性」と真逆の存在です。安心安全な工具箱で貢献してきたリングスターにとって、オーシャンプラスチックはいわば「異物」です。青いポリタンクだけ選別していただいていますが、オイル、海水、その他の汚れが付着していますし、洗浄工程を経てリペレットされた材料でも、バージン材に比べれば当然物性は劣りますし、その価格は驚く程高額で、製品化にとてつもなく大きなハードルとなります。
プラ太郎
難しい判断ですね。機能が劣るオーシャンプラスチックをどう組み込むかは、今まで育ててきたブランドにも大きく関わりますね。
唐金さん
社内でも賛否両論ありました。しかし、実際に対馬の悲惨な現状を見てきたことで、役に立ちたいどうにか活路を見出したいという想いで挑戦しました。オーシャンプラスチックの配合比を変えてサンプルを作成し、強度検査を繰り返しました。
配合比を100%では、成形はほぼ不可能でした。強度・耐久性を保ちつつ、匂いや成形性を許容できる限界が10%。
オーシャンプラスチックを0.1%でも混ぜれば、海洋プラのリサイクル製品とうたえますが、配合できる限界まで配合していこうと意見がまとまりました。
プラ太郎
オーシャンプラスチックを配合しても強度を保てるのは、構造がしっかりしていることを立証しましたね。
唐金さん
ありがとうございます。長年使ってもらえる工具箱を作り続けてきた技術力が下支えとなっています。オーシャンプラスチックを配合しても高強度を実現できたことは、誇りに思います。
長崎県対馬市へ漂着している海洋プラスチックを10%配合した収納ボックスの予約販売を開始しました。
昨年の9月に訪問し、できる事から行なっていくと始めた事業
正しい根拠と透明性をもって長期的に伝え
【正しく選ぶ・正しく捨てる・正しく向き合う】を実現していきますhttps://t.co/QOJGagKxLb pic.twitter.com/lSV9SEXswN— 唐金祐太@明治創業の工具箱屋 (@yuta_karakane) February 26, 2023
3.ブランドコラボして更なる価値提供
リングスターは、オーシャンプラスチックのリサイクルだけでなく、地域への還元も積極的に行っている。このオーシャンプラスチック100gに対して100円を対馬のリサイクル事業に還元する取り組みは、中長期的な課題解決に繋がっています。
また、リングスターは他のブランドとのコラボレーションも進めており、サステナビリティに対する共通の価値を強調したプロダクトを提供することで、より多くの人々に持続可能な消費の重要性を啓発している。
プラ太郎
さらにオーシャンプラスチック100gに対して100円を対馬に還元なさっているんですね。
唐金さん
対馬の海洋ゴミ問題は、今後継続して取り組んでいかねばなりません。
『再生困難であった汚れた漂着物を老舗のノウハウを用いて、誰もなしえなかった耐久消費財として再生させる』
我々ができることを実直に進めております。
プラ太郎
リングスターさんの一連の取り組みが、ブランドコラボでさらなる広がりを見せているそうですね。
唐金さん
オーシャンプラスチックとシナジーが強いということで、釣り具メーカーさんや魚釣りのプロ(プロアングラー)さんなどとコラボさせていただいております。
「海を守りたい。現状をどうにか改善したい。役に立ちたい。」という環境保護活動が、広がっています。
この秋にBlueBlueから海洋プラスチックを10%配合したオリジナルモデルのドカットD5000を発売します。
今回の企画はドカットの発売元RINGSTAR社が対馬の方々と一丸となってリサイクルに取り組んでいる活動を知ったところからスタートしました⏬https://t.co/6llSnufivL pic.twitter.com/vVdmtNB104
— BlueBlue(ブルーブルー) (@BlueBlueFishing) July 20, 2023
4.サステナブルな素材を使用して新しい商品を開発したい会社や技術者向けに
リングスターの取り組みは、サステナビリティと利益の両立が可能であることを示唆しています。プラスチック成形加工の技術者や商品開発を考える企業にとって、リングスター取り組みは1つのお手本でしょう。
サステナブルな素材を使用し、独自の技術力を駆使して新しい商品を開発することは、環境とビジネスの両面で大きな成果をもたらす可能性があります。リングスターのような先駆者の成功事例が、持続可能な未来を築くための指針です。
プラ太郎
これからサステナブルな商品開発を通して、社会に貢献していきたいと考えている企業さんにアドバイスをいただけますか。
新規事業でサステナブルに挑戦するポイントはどんな点ですか。
唐金さん
全くの新規事業を立ち上げるのではなく、【売り場を変えてみる】発想の転換が重要と考えます。
リングスターは工具箱の専門メーカーです。創業から130年以上。その強みを活かした事業を展開してきました。対馬オーシャンプラスチックを使用した商品は、その一環として取り組んできました。既存の事業に組み込むことで、新しい価値創出しています。
プラ太郎
作り手が考える「サステナブルな想い」を消費者に伝えることも難しいですよね。
唐金さん
「商品を買って下さい。」という伝え方ではなく、現状の海洋プラゴミの構造に異を唱え、リングスターができることに共感・賛同していただけるような伝え方を意識しています。note.com、SNS、自社ウェブサイトなど様々な媒体を通して、丁寧に想いを発信しています。
プラ太郎
どこで売っていくかということを悩まれる企業さんが多いと思います。売り方で意識されたことはありますか。また、コラボ企画は、当初からお考えでしたか。
唐金さん
そうですね。今までお付き合いをしてきている販売代理店さんや商社さんとも引き続き連携を取って販売しています。中長期的にサプライチェーン全体で利益を共有できるような仕組み造りは重要です。
商品価値の透明性を丁寧に説明することで、環境保護活動を価格転嫁しています。
コラボ企画は初めから考えていました。我々はメーカーですのでものづくりに専念しつつ、様々なブランドさんとコラボすることで色々なマーケットに商品をお届けしています。
プラ太郎
今回、お忙しい中1時間を超えるインタビュー誠にありがとうございました。老舗メーカーの新しいチャレンジ。大変胸熱でした。無理と思われた難題にできることからやっていく姿勢は、多くの企業さんの励みになるものと感じました。
唐金さん
いえいえこちらこそありがとうございました。始まったばかりの挑戦ですが、継続して海洋プラゴミ問題を取り組んでいきます。