射出成形工場では、複数台の射出成形機を同時に稼働しているため、不思議とトラブルは重なる時ほど重なります。
成形機のアラーム、取出機の停止、原料切れ、チラー異常など、あちこちからアラーム音が鳴り始めると、現場は一気に慌ただしくなります。
新人の頃は、「全部すぐに直さなければ」と焦ってしまいがちです。しかし、焦って複数の設備を中途半端に触ると、どれも復旧できず、さらに状況を悪化させてしまうことがあります。
私自身も若い頃、複数のトラブルが同時に発生し、あちこちの設備を行ったり来たりしてしまい、結局どの設備も止まったままという苦い経験がありました。
その経験から学んだのは、一人で同時にできる仕事は一つしかないということです。
だからこそ、同時多発トラブルでは「優先順位」を意識して行動することが重要です。

まずは優先順位を決める
トラブルが複数発生したら、まず深呼吸して状況を確認します。
おすすめの優先順位は次のとおりです。
- 人命・安全に関わるもの
- 被害が拡大するもの
- 短時間で復旧できるもの
- 時間がかかるものは応援を呼ぶ
この順番を意識するだけでも、慌てずに対応できるようになります。
① 人命・安全に関わるものを最優先する
どれだけ生産が止まっていても、安全より優先されるものはありません。
例えば、
- 水漏れで床が滑りやすくなっている
- 作動油が漏れている
- フォークリフトの通路にペレットが散乱している
- クレーン作業中の異常
このような状況では、まず事故を防ぐ処置を優先します。
設備は後から復旧できますが、人身事故は取り返しがつきません。

② 被害が広がるトラブルを止める
時間が経つほど被害が大きくなるトラブルもあります。
樹脂の熱劣化を防ぐ
ナイロン(PA)や難燃材、添加剤の多い樹脂は、高温のシリンダー内で長時間滞留すると熱分解し、炭化することがあります。
そのまま放置すると黒点不良が大量に発生し、復旧後も長時間パージが必要になります。
復旧まで時間がかかる場合は、シリンダー内の樹脂をパージして置き換えておく判断も重要です。
水漏れ・油漏れは二次災害を防ぐ
金型のニップル破損による冷却水漏れや、油圧ホースからの作動油漏れでは、まず被害を広げないことを優先します。
- 金型や成形機を水拭きする
- 漏れた水や油を清掃する
- 床が滑らないよう処置する
- ペレットが周囲へ広がらないよう回収する
設備を直すことよりも、二次災害を防ぐことが先です。

③ 短時間で復旧できる設備から再稼働させる
被害拡大を防いだら、次は簡単に復旧できそうな設備から対応します。
射出成形工場では、成形機が稼働して初めて利益が生まれます。
そのため、短時間で復旧できる設備を先に動かした方が、生産ロスを最小限にできます。
原因を取り除いてから再スタートする
ここで重要なのは、単にリセットすることではありません。
「なぜ止まったのか」を確認し、原因を取り除いてから再スタートします。
例えば、
- 原料切れなら材料を補給する
- チラーのYストレーナー詰まりなら清掃する
- 取出機のチャックミスなら原因を確認する
- 金型のグリス切れなら給脂する
原因を残したまま運転すると、同じトラブルが繰り返されるだけです。
④ 一人で抱え込まず応援を呼ぶ
設備によっては、一人では復旧できないものもあります。
そんな時は、早めに上司や設備担当、同僚へ連絡しましょう。
経験不足で原因が分からない場合もありますし、原因は分かっていても人手が足りないこともあります。
「もう少し頑張れば直るかもしれない」と一人で抱え込むより、早めに応援を呼んだ方が復旧は早くなります。
トラブルは、発生してから時間が短いほど復旧しやすいものです。

ベテランほど優先順位を考えて動いている
ベテラン作業者は、特別な技術だけでトラブル対応しているわけではありません。
まず状況を整理し、「今、一番優先するべきことは何か」を考えてから行動しています。
焦って何台もの設備を触るのではなく、一つずつ確実に解決していく。
この冷静な判断が、結果として復旧時間を短縮し、工場全体の稼働率を守ることにつながります。
まとめ
射出成形工場では、トラブルは重なる時ほど重なります。
そんな時は、
- 人命・安全を最優先する
- 被害が広がるトラブルを止める
- 簡単に復旧できる設備から再稼働する
- 一人で抱え込まず応援を呼ぶ
この優先順位を意識することで、焦らず確実に対応できます。
私自身、若い頃は「全部すぐ直そう」として失敗した経験があります。しかし、優先順位を意識するようになってからは、落ち着いて判断できるようになり、結果的に復旧も早くなりました。
同時多発トラブルでは、技術力だけではなく、冷静に優先順位を判断する力も射出成形技能士に求められる大切な能力です。