射出成形では、できるだけシンプルな成形条件が理想です。
一速・一圧で良品が安定して得られるのであれば、それが最も管理しやすく、トラブルも少なくなります。
しかし、実際の製品では一速だけで安定した成形ができるケースはそれほど多くありません。
そこで使用されるのが射出速度の多段制御です。
この記事では、多段制御が必要になる理由と、どのような考え方で速度を切り替えるのかを解説します。

シンプルな条件が一番良い
成形条件は、複雑になればなるほど管理が難しくなります。
例えば、
- 射出速度6段
- 射出圧力5段
- 保圧6段
という条件では、どこが原因で不良が発生しているのか分かりにくくなります。
そのため、まずは一速で充填できないかを検討し、それでも問題がある場合に必要最小限の多段制御を追加するのが基本です。

なぜ多段制御が必要になるのか
① 金型形状が複雑だから
最も多い理由が金型形状です。
例えば、
- 肉薄部
- リブ
- ボス
- 袋小路形状
- 流路の急激な変化
などでは、一定速度で充填すると問題が発生することがあります。
薄肉部では流れが止まりやすく、逆に広い部分では勢いが付きすぎることもあります。
そのため、
- 最初はゆっくり
- 薄肉部では速く
- 最後は少し減速
というように、樹脂の流れに合わせて速度を変える必要があります。
② 樹脂の特性による影響
樹脂によっても最適な充填方法は異なります。
例えば、
- 高粘度材料
- ガラス繊維入り樹脂
- 難燃グレード
- 添加剤が多い材料
では流動性が大きく異なります。
また、
ガスが発生しやすい樹脂では、
急激に充填するとガス焼けや表面不良が発生しやすくなります。
樹脂の特性に合わせて速度を調整することも、多段制御の重要な役割です。
③ 要求品質が高い製品
外観部品では、
射出速度が製品品質に大きく影響します。
例えば、
- フローマーク
- ジェッティング
- ウェルドライン
- 光沢ムラ
- シルバー
などは、充填速度によって発生状況が変わります。
寸法だけでなく、見た目の品質が要求される製品では、多段制御による細かな調整が必要になることがあります。

④ 二次加工との相性
成形後に
- メッキ
- 蒸着
- 塗装
- 印刷
などを行う製品では、
成形時の表面状態がそのまま二次加工品質に影響します。
わずかなフローマークやガス焼けでも、
メッキ不良や塗装ムラの原因になることがあります。
そのため、外観を重視する製品では速度制御がより重要になります。
⑤ 特殊成形では速度制御が不可欠
例えば、
- ガスインジェクション成形
- 二色成形
- インサート成形
- 薄肉成形
などでは、
通常の成形以上に充填タイミングが重要になります。
樹脂の流れをコントロールするため、多段制御が前提となることも少なくありません。
フローフロントを意識することが重要
速度を切り替える基準は、
スクリュー位置ではなく、フローフロントが金型内のどこにあるかを考えることです。
例えば、
- ゲートを通過する瞬間
- 肉薄部へ入る直前
- リブへ流れ込む位置
- 流れが合流する位置
- エアが抜けにくい袋小路
など、
樹脂の流れに合わせて速度を調整すると、不良の発生を抑えやすくなります。

ガスの逃げ道も考えて充填する
射出成形では、
樹脂が流れる前には金型内に空気があります。
この空気や樹脂から発生するガスを適切に逃がさなければ、
- ガス焼け
- シルバー
- 焼け
- ショートショット
などの原因になります。
特に添加剤が多い樹脂や物性を重視した樹脂では、ガスの発生量が多くなる傾向があります。
そのため、
樹脂を勢いよく押し込むのではなく、
ガスがパーティングラインやガスベントから自然に抜けるような充填を意識することが重要です。
多段制御で解決しない場合は金型を疑う
多段制御は万能ではありません。
いくら速度を細かく調整しても、
品質が安定しない場合があります。
そのような場合は、
成形条件ではなく、
金型側に原因がある可能性を考えるべきです。
例えば、
- ガスベント不足
- ゲート位置が適切でない
- ランナー形状が悪い
- 冷却バランスが悪い
- エア溜まりができている
などです。

金型改良も品質改善の重要な手段
もちろん、金型は基本的にお客様の資産です。
そのため、成形メーカーが独自の判断で加工することはできません。
しかし、
成形条件を変更しても改善しない場合は、
- 不良率
- 歩留まり
- サイクルタイム
- 成形条件の変更履歴
などをデータとして整理し、
お客様へ金型改良を提案することも重要な仕事です。
感覚ではなく、データに基づいて説明することで、お客様にも改善の必要性を理解していただきやすくなります。
まとめ
射出速度の多段制御は、単に設定項目を増やすためのものではありません。
金型形状や樹脂特性、要求品質に合わせてフローフロントをコントロールし、樹脂と金型内のガスをスムーズに流すための技術です。
そして、多段制御でも品質が安定しない場合は、成形条件だけで解決しようとするのではなく、金型そのものを見直すことも重要です。
優れた成形技術者は、成形条件だけを見るのではなく、「樹脂が金型内をどのように流れているか」を常にイメージしながら条件を作り上げています。