射出成形を始めたばかりの方が最初につまずきやすいのが、「射出速度」と「射出圧力」の関係です。
成形機にはどちらも設定項目がありますが、それぞれの役割を正しく理解している人は意外と多くありません。
この記事では、射出速度と射出圧力の違いから、VP切り替え、保圧まで、初心者にも分かりやすく解説します。

射出速度で充填をコントロールする
まず一番重要なのは、
充填は射出速度で制御する
という考え方です。
射出圧力で樹脂を押し込むのではなく、
「設定した速度で樹脂を流す」
ことが基本になります。
例えば100mm/sに設定したなら、
機械は100mm/sで充填しようとします
射出圧力は速度を実現するために設定する
では射出圧力は何のためにあるのでしょうか。
答えは、
設定した速度を維持するために必要な力です。
イメージすると、
- 射出速度=アクセル
- 射出圧力=エンジンのパワー
のような関係です。
十分なパワーがあれば設定した速度で走れますが、パワーが不足するとアクセルを踏んでも速度は出ません。
射出成形でも同じです。
圧力不足になると速度は頭打ちになる
例えば100mm/sに設定していても、
射出圧力が不足していると、
実際には80mm/sや60mm/sしか出ていないことがあります。
これを
速度が頭打ちになっている状態
といいます。
この状態では、
- 充填時間が毎回変わる
- 樹脂温度の影響を受けやすい
- 寸法が安定しない
- 成形不良が増える
など、ばらつきの原因になります。
つまり、
速度制御したいのに、実際は圧力制御になってしまっている
状態なのです。
このような条件は、できるだけ避けたいところです。
なぜ90%までは速度制御なのか
一般的な成形では、
約90%程度までを射出速度で充填します。
理由は、
この領域では、
樹脂が金型内を流れることが最も重要だからです。
流れを一定速度で管理することで、
- フローフロント(流れの先端)が安定する
- ウェルドラインが安定する
- エアの巻き込みが減る
- 寸法ばらつきが少なくなる
など、多くのメリットがあります。
一方、金型がほぼ満たされた状態では、
樹脂は流れるというよりも「圧縮」される状態になります。
ここから先は速度ではなく保圧で管理する領域になります。
VP切り替え位置は90%充填が目安
VP切り替えとは、
速度制御から保圧制御へ切り替える位置です。
一般的には、
約90%程度充填した位置で切り替えます。
ここが早すぎるとショートショットになりやすく、
遅すぎるとバリや過充填の原因になります。
製品形状によって最適な位置は異なりますが、
まずは90%充填を目安に設定すると調整しやすくなります。
良い成形条件とは何か

初心者は、
「一番きれいな製品ができた条件」
を良い条件だと思いがちです。
しかし本当に良い条件とは、
生産中に多少条件が変動しても、製品品質が規格内に収まる条件
です。
成形現場では、
- 材料ロット
- 樹脂温度
- 周囲温度
- 金型温度
など、さまざまな条件が日々変化します。
その中でも品質が安定する条件こそが、良い成形条件といえます。
シンプルな条件ほど安定する
成形条件は、
シンプル・イズ・ベスト
です。
もし、
- 一速
- 一圧
だけで良品ができるなら、
それが最も安定した条件になります。
設定項目が少ないほど、
管理もしやすく、
トラブルの原因も少なくなります。
しかし実際には多段速度が必要なことも多い
実際の製品では、
- リブ
- ボス
- 袋小路形状
- 肉薄部
- 急激な肉厚変化
などがあります。
このような形状では、
一定速度では充填できないことも珍しくありません。
そのため、
射出速度を多段で切り替える
ことがあります。
スクリュー位置とフローフロントを意識する

多段速度を設定するときは、
スクリュー位置だけを見るのではなく、
その位置で樹脂の先端(フローフロント)が金型のどこにあるか
を意識することが重要です。
例えば、
- ゲートを通過する位置
- 薄肉部へ入る位置
- リブへ流れ込む位置
- 製品が合流する位置
などに合わせて速度を切り替えることで、
充填が安定しやすくなります。
射出速度は「すーーーっと」充填するイメージ
理想の充填は、
樹脂がすーーーっと一定に流れることです。
必要以上に速くすると、
- バリ
- ガス焼け
- ジェッティング
- 樹脂劣化
などが起こりやすくなります。
逆に遅すぎると、
- 流動性低下
- ショートショット
- ウェルドライン悪化
- 寸法ばらつき
などが発生します。
つまり、
不良が出ない範囲で、できるだけ速く安定して充填すること
が基本になります。
保圧はゲートシール時間を意識する
VP切り替え後は、
保圧で樹脂の収縮を補います。
このとき重要なのが
ゲートシール時間です。
ゲートが固まった後は、
いくら保圧をかけても製品には樹脂が入りません。
つまり、
必要以上に長い保圧時間は、
サイクルタイムを長くするだけになります。
ゲートシール時間の詳しい求め方については、別の記事で詳しく解説しています。
寸法や変形は冷却時間で調整する
寸法や反り、勘合性は、
保圧だけで調整するものではありません。
冷却時間を適切に設定することで、
製品温度が安定し、
寸法や変形も安定してきます。
良い金型ほど成形条件はシンプルになる
成形現場には、
「成形の良し悪しは金型で9割決まる」
という言葉があります。
樹脂が無理なく流れ、
ガスが抜け、
均一に冷える金型であれば、
複雑な条件を組まなくても安定した成形ができます。
逆に、条件で無理やり不具合を抑えようとすると、
ばらつきや不良の原因になりやすくなります。
まとめ
射出成形では、まず射出速度で樹脂の流れをコントロールし、その速度を維持できるだけの射出圧力を設定することが基本です。
約90%までは速度で安定して充填し、VP切り替え後は保圧で収縮を補います。そして、寸法や変形は冷却時間を含めた成形条件全体で管理します。
シンプルな条件で安定した品質を実現することが理想ですが、製品形状によっては速度の多段制御も必要になります。
最終的な目標は、「たまたま良品ができる条件」ではなく、多少条件が変化しても品質が規格内に収まる、再現性の高い成形条件を作ることです。