こんな方におすすめ
- 射出成形の成形サイクル短縮の基本
- サイクル短縮できる工程は?
- サイクル短縮する際に気を付けるポイントは?

目次
1. 成形サイクル短縮=利益
射出成形において、成形サイクルの短縮は生産効率向上に直結し、結果として利益の最大化につながります。1ショットあたりの時間を短縮することで、同じ時間でより多くの製品を成形でき、生産コストの削減と収益の向上が実現できます。
2. サイクル短縮すべき工程
射出成形の1サイクル工程
射出成形の1サイクルは、以下の工程で構成されます。
射出保圧→冷却→型開き→エジェクター突き出し→取出し→エジェクター戻り→型閉め
このうち、成形品の外観や寸法に影響が少なく短縮できるのは以下の工程です。
- 型開き
- エジェクター突き出し・戻り
- 取出し
- 型閉め
逆に、射出保圧や冷却時間は成形品の品質に大きく影響を与えるため、慎重に調整する必要があります。
1) 型開き時間を短縮するポイント
- 型開きの速度
初速(キャビコアが離れるまで)は低速。その後、段階的に速度を上げる。 - 型開き完了位置
必要以上に開かないよう型開き完了位置を最適化。取出し機の上下アームが引き抜ける最少の位置に設定。 - 油圧成形機は、オーバーラン注意
型開き完了位置の速度が高すぎると、オーバーランして取出し位置が安定しません。型開き完了位置前で低速におとしましょう。
2) 型閉じ時間を短縮するポイント
- 型閉め速度
型閉め速度を適切に上げる。(型閉めスタートは高速→キャビコアの合わせ位置、アンギラピン挿入位置前で低速に)
3) エジェクター時間を短縮するポイント
- 突き出し速度と、突き出し量
突き出しは変形や白化を考慮して低速が基本ですが、成形不良、金型のトラブルが出ない程度に、速度を上げることは可能です。 - カジリ防止のため、エジェクターは、速戻しが基本です。
4) 取出し時間を短縮するポイント
- 取出し機の速度、タイミング最適化
成形機エジェクター遅延・保持タイマー、取出し機チャック・引き抜きタイマーをうまく連動して無駄のないタイミングを設定。) - 吸着方式や取出しチャックの見直し
吸着位置、吸着パッドの数、取出し治具の強度など、高速瞬時に取り出せる工夫が必要です。 - 取出し上下アーム待機位置
取出し機上下アームを金型直上に待機させ、取出し位置まで一早く到達できるように設定。
3. 中級 成形サイクル短縮術
射出保圧、冷却時間にかかわる条件変更は、成形品の品質に大きく影響します。安易に変更して、成形不良が多発、最悪客先に迷惑をかけることになります。事前の試作が必要です。
一例を紹介します。
1) 金型冷却温度の調整して冷却時間を短縮
充填した樹脂が冷めやすいように金型冷却水の設定温度を変更。寸法や外観(ヒケ・ソリ)に影響が出ない範囲で温度設定を調整。また、冷却しにくい部位には単独回路を設け、優先的に冷却する。
効率よく冷却し、冷却時間短縮が期待できる。
2) ガスベント追加して、冷却時間を短縮
ガス抜けを改善することで、樹脂温度を下げ、射出保圧を低減。残留応力が抑えられ、寸法安定性を向上し、冷却時間の短縮が期待できる
4. 金型設計時に盛り込むポイント
「製品の良し悪しは金型が9割」と言われるほど、金型の精度が射出成形において重要です。金型設計の段階での工夫を盛り込むことで、サイクル短縮が可能になります。一例を紹介します。
1) ヒケを見込んだ肉ヌスミ設定
ヒケが発生しやすい箇所に適切な肉ヌスミ(肉厚削減)を設定。適正なリブ形状の設計で冷却効率を向上
2) エジェクターピンと冷却水回路の配置
複雑な金型になるほど、エジェクターピンの位置と冷却回路取り合いが難しい問題になります。スムーズな突き出しを実現しつつ、冷却水回路を最適配置し、冷却効率を向上することが大事です。
3) かじりにくいスライド構造
スライド機構の適正設計により、スムーズな型開閉を実現。摺動部には、大きなストレスがかかります。油溝を十分に加工しグリス切れがないようにします。また、無給油スライドプレートの導入なども効果的です。
追記:成形サイクル短縮の是非

成形サイクルを短縮することで利益向上につながる場合もありますが、無闇なサイクル短縮はリスクを伴います。特に、客先との仕様書に記載された基準サイクルを厳守することが最優先です。
また、成形を委託されている金型はサプライヤーとして預かっているものであり、無理なサイクル短縮によって品質や耐久性に影響を及ぼす可能性があります。利益を増やす目的だけで必要以上のサイクル短縮を行うのは危険です。そのため、「サイクルアップ=正義」といった単純な考え方は避けるべきでしょう。
基本的に、見積もり段階で適正な工賃を設定し、それに基づいて仕事を請けることが重要です。サイクル短縮をしなければ利益が出ないような案件は、そもそも受けるべきではありません。
とはいえ、実際の取引では利益率の低い金型の成形を依頼されることもあるでしょう。いわゆる**「抱き合わせ案件」**のような形で、取引関係を維持するためにやむを得ず対応するケースもあります。その場合は、目先の利益だけでなく、中長期的な関係性や総合的な利益を考慮して判断することが大切です。