射出成形の過程で、溶融樹脂が金型内にどのように流れ、冷却されるかは非常に重要です。特に金型内での樹脂の流れ方を理解することで、製品の不良を低減する対策を立てやすくなります。本記事では、射出成形の基本である樹脂の流れ方「ファウンテンフロー」について解説し、各ポイントで起こりやすい不良や対策についてもまとめます。
1. 金型内における樹脂の流れ方
溶融した樹脂が金型内に充填される際、金型内に噴水のように流れ込み(ファウンテンフロー)、次第に冷えていきます。以下の流動過程が基本のメカニズムです。
- スキン層の形成:樹脂が金型内に充填されると、金型の表面温度が低いため、樹脂の表面から徐々に冷えていきます。冷却が進むと、金型に接している部分が固化し、スキン層と呼ばれる硬い層が形成されます。
- ファウンテンフロー:樹脂の流れは噴水のように中央部を進みます。溶融した樹脂の表面が冷えていく中で、中央部分だけが流動を続け、前進していく様子が噴水(ファウンテン)のように見えることから、この名前が付けられています。
2. 金型内の不良ポイント
金型内で樹脂が流動する際、形状や構造の違いによりさまざまな不良が発生することがあります。ここでは、代表的な不良ポイントと対策を解説します。
- 肉厚が変化する所:肉厚の変化する箇所では、樹脂の流れが乱れることが多く、冷却に差が生じることで「ヒケ」が発生しやすくなります。また、段差部分で空気が巻き込まれると、エアーによる気泡が発生する可能性があります。
- リブやボス部:リブやボス部は形状が複雑であるため、充填中に空気を巻き込みやすくなり、ウェルドラインができる原因になります。この部分では適切なガス抜きが特に重要です。
- 流動末端や袋小路:樹脂が到達する末端部分や袋小路構造はガスが逃げにくく、高速充填によってガス焼けが発生することがあります。逆に充填が遅すぎると、湯じわが発生する可能性が高くなるため、充填速度の調整が大切です。
- ゲート部:ゲート部では、樹脂が高速で流れ込みジェッティングが発生する場合があります。
3. 安定した計量が不良を低減する
樹脂の安定した充填には、事前の適切な計量が欠かせません。計量段階での樹脂の混練、主材と粉砕材の配合比、乾燥管理などが、最終製品の品質に影響を与えます。
- 乾燥管理:事前準備では適正な温度・時間で乾燥させることが重要です。粉砕材を使用する場合は、配合比を一定に保ち、適切な乾燥条件を整えます。
- スクリュー回転速度・背圧・サックバックの調整:スクリュー回転速度や背圧、サックバックの調整が効果的です。適正な計量は、樹脂内の気泡やエアーが除去され、安定した充填が可能になります。ハナタレやシルバー、エアー巻き込みといった不良は、3条件を微調整して対応します。また、冷却時間に1秒程度余裕を持たせ、しっかりと混練することも有効です。
4. 金型清掃とオーバーホール
樹脂の流れ方を最適に保つためには、金型自体のメンテナンスも必要不可欠です。特にガス汚れやガスベントの劣化が進行すると、樹脂の流れが乱れやすくなります。
- 日々の金型清掃:毎日の成形機上での金型清掃では、パーティングライン(PL)やガスベントの清掃を欠かさず行いましょう。
- オーバーホールの実施:通常、5万ショットを目安に金型のオーバーホールを行うと良いでしょう。ガスの抜け道や微細な部品を再調整し、樹脂の流動性を最適化することで、不良発生率の低減が期待できます。
- ガスベントの彫り直し:ガスが逃げにくくなってしまった箇所は、必要に応じてガスベントの彫り直しを行いましょう。PPやPEなどは2/100mm程度が効果的です。深すぎるとバリ発生の原因になります。
まとめ
射出成形で安定した製品を作るためには、樹脂の流れ方を理解し、金型内の不良ポイントに対する対策を講じることが重要です。また、計量や乾燥管理、金型の清掃といった工程管理も欠かせません。ファウンテンフローを理解することで、射出成形における樹脂の動きと製品品質を把握しやすくなります。これらの知識を活用し、より良いモノづくりを目指しましょう。